”あ、まただ”
遠く越前の視線の先にはよく見慣れた2人の人影が映っていた。
「ねぇ!見て!不二様と手塚様よ!」
「あら、本当だわ。お2人が一緒にいらっしゃる所ってよく見かけるわよね」
「2人とも見目麗しいから、並んでいると絵になるわぁ。」
「眼福眼福。」
「あのお2人って付き合ってるのかしら?」
自分の横で噂話をする御次達が話しているのが耳に入ってくる。
「どうなのかしらね?・・・・確かに幼い頃からの知り合いだとは聞くけれど…」
そんなはずはないし、聞きたくないと思うのに耳に飛び込んで
来てしまう。
「あ!今、手塚様が笑ったわ!」
「珍しいわ!苦笑している所はよく見るけれど、あんな優しい笑顔を浮かべるなんて」
その声にはっとして手塚の顔を見ると、いつも寄っている眉間の皺がわずかに緩み
瞳には優しい色が浮かんでいる。
「やっぱりあの2人って…」
付き合ってるのかしら?と続くであろう言葉が聞きたくなくて、胸がキュッと締め付けられた
ような感覚に越前は逃げるようにその場を走り去った。
「―― 越前、ここにいるんだろう。入ってもいいかな?」
廊下を走りに走った越前が御台の居室のある棟の奥にある薄暗い
部屋に入り込み膝を抱えてもやもやとした感情を持て余していると
障子の向こうから涼やかな声が聞こえた。
「…どーぞ。」
と答えると障子が開かれ、声の主…不二が
打掛の裾を捌きながら近づいてきて、越前の腰を下ろした。
「さっき、手塚と話してた時にね。君が辛そうな顔をして走っていくのが見えたから追ってきたんだけど」
「……」
「どうしたの?何か気になることがあるなら言ってしまったほうがいいよ。」
”その方が楽になるから。”優しい声と言葉が胸にしみて、越前は重い口を
ゆっくりと開いた。
「さっき・・・不二様と・・・手塚様が話してた時…」
「うん」
「・・・手塚様が不二様のコト方を向いて見たことないくらい綺麗に笑ってたんスよ・・・。
俺、そんな手塚様の顔見たことなくて、不二様は手塚様と仲いいのは分かってる
けど俺も見たことの無い、笑顔を見れる位仲がいい不二様が…羨ましいと思ったら
何か…胸がキュッとなってその場に立ってらんなくて…気付いたら走ってココに
いて・・・・」
そこまで一気に喋って気まずくなったのか、視線を自分の膝に落とす。
そんな越前に不二は微笑んでその緑がかった黒い髪を撫でてやる。
「・・・そっか、僕に嫉妬してしまったんだね。」
「…嫉妬…?」
「手塚が僕に君が見たこと無い笑顔を見せたことが辛かったんでしょう?」
「うん…。そっか、嫉妬だったのかも・・・」
「でも安心していいよ。僕と手塚は唯の幼馴染だから。」
「だけど、”唯の”幼馴染に手塚様があんな優しくて綺麗な笑顔見せます?」
まだ、不安げな瞳でこちらを伺ってくる越前に苦笑をすると、
イタズラっぽい笑みを浮かべた。
「越前、いいことを教えてあげるよ。」
「いいこと?」
「面白いそうだから黙ってたけどね、最近の手塚は結構、越前の言う所の”優しくて綺麗な笑顔”
をするようになったんだよ。・・・それも決まった条件で。」
「その条件ってなんなんスか?」
「何だと思う?」
質問に質問で返すと越前はムッとした顔になって
「分からないから聞いてるんじゃないっスか!」
と語気を荒くする越前をまぁまぁと宥めて
内緒話をするように越前の耳に口を寄せる。
「手塚が”優しくて綺麗な笑顔”を浮かべる時は必ず越前…君の話をしている時なんだよ」
もちろんさっきもね。そう小さい声で告げると
越前は暗い部屋の中でも分かるほど真っ赤に顔を染めた。
※※※※※※※
・幼馴染である不二への嫉妬。
・手塚が越前関連でしか見せない笑顔。
その二点を書きたくて書きなぐってみた。
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