04 | 2025/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | ||||
4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |
11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 |
18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 |
25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
「おかえり、遅かったね…ってどうしたのブン太!?」
「なんでもねぇよ。」
いつもの様にブン太を玄関まで迎えに行くと、
ブン太は玄関の廊下に突っ伏すように倒れていた。
「なんでもない訳が無いだろう?…ってお酒くさいね、飲んだの?」
「おうっ!飲まねぇとやってらんなぜぃ!」
「もう…しょうがないなぁ…。」
ブン太の両脇に手を入れて体を持ち上げ、半ば引きずる
ようにリビングにブン太を移動する。
その間、ブン太はされるがままで鼻歌を歌ってご機嫌な
風を装おうとしているが、その鼻歌は泣き出す直前のように
震えていた。
「あのさぁ…。オレ、今日仕事で失敗しちゃってさ。」
ブン太をソファーに座らせて水でも飲ませようと
キッチンに行こうとした俺の腕をブン太が掴んで、
フローリングに向かい合わせになるように座らせる。
「んで、部長に呼ばれて怒られてさ。今日の事だけじゃなくて
普段の細かいこともいっぱい言われて。これまで自分なりに
全力で頑張ってたつもりだったのに、全然伝わって無かった
のかよって…」
その瞬間に瞳から零れ落ちた滴を見せたくないと言うように
ブン太は俺の左肩に頭を預けた。
服の左肩が熱い涙で少しずつ濡れていくのを感じて思わず
左手をそっとブン太の頭に添えて軽く髪を梳くように
頭を撫でた。
「わかってるよ。きっとみんなブン太が頑張っていること、
わかってるよ。少なくとも俺はブン太が頑張ってること、
わかってる。」
だから元気を出して…そう続けて囁く代わりに、俺はブン太
右の手をブン太の背中に回してぎゅっと抱きしめた。
「いってらっしゃい。」
その言葉と共に額に降って来たくちづけに
不覚にも一瞬固まってしまったが、
すぐさま鳩尾に拳をお見舞いしてやると目の前の男は
『ぐふぅ!』と奇妙な声を上げるとその場に蹲ってしまった。
まぁ、ほぼ反射で加減なく人体の急所を殴ったから相当痛いだろう。
「ペットのくせにバカな事すんじゃねぇ!」
自業自得だっ!と哀れっぽい目で蹲ったまま見上げてくる
幸村を怒鳴りつけると、生意気な事に反論してくる。
「仕事に向かうご主人様へのペットからの頑張ってね、
っていう精一杯の愛情表現だよ。」
「は?フツーのペットはやんねぇよ!
いってらっしゃいのキスなんてデコでもやるのは、
カップルか新婚さんって相場は決まってんだよ!」
「あ、ブン太。彼女にいってらっしゃいのキス
今までしてもらったことない?もしかして夢だった?
ブン太の初めて頂いちゃって悪かったね。」
「ぜってー、悪いと思ってないだろぃ!」
そんなことを話している間もニヤニヤした顔を
している幸村にイラっとして幸村の頭目掛けて思いっきり
チョップを振り下ろしてやった。
「痛っ!」
「ふん、一生痛がってろ、いってきます!」
コイツに付き合ってたらいい加減仕事に遅れる!
とばかりに言い捨てて家を飛び出した。
閉じる直前に扉の向こうから再び「いってらっしゃい」
という声が聞こえた瞬間…ふと、朝、こんな風に送り出して
くれる人がいるっていいなと思わず思ってしまった自分に
また腹を立て、帰ったら絶対幸村に八つ当たりをしてやろう。
と心に誓うのだった。
by 私から貴方への10の言葉 1.いってらっしゃい COUNT TEN.
俺は静かに君の帰りを待つ。
気になるテレビ番組があっても、音楽が聴きたい気分でも、
決して音の立つことはせずに。
そして、静かなこの家の玄関からかちゃりと鍵の音が聞こえたら、
どこにいてもすぐに出迎えに行くんだ。
疲れているご主人様にペットなりの最大限のお出迎えをする
ために…。
「おかえり、ブン太。お疲れ様。」
by 僕から君への10の言葉 1.おかえり COUNT TEN.