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思い付いたネタのたまり場。
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どす…と膝から力が抜けてフローリングの床に尻もちを
 ついた。先ほど思わず取り落してしまったペットからの初めて
 の手紙を、倒れそうになる体を支える為についた手がぐしゃりと
 潰してしまった事さえ構う余裕が無いほどブン太は混乱していた。

 「ウソだろ…。」
  確かに昨日の幸村はどこか元気が無くて…それでいていつも以上
  にひっついてきておかしいとは思っていたけど…。
 「こういう事かよ…。つーか、幸村って名字だったのかよ。
  精市って…初めてフルネーム知ったぜぃ…。」
  ははっ。乾いた笑いを漏らして行き場の無い衝動を散らすように
  前髪を掻き揚げる。
 「オレ、幸村の事なんも知らなかったんだな…あんなに一緒に居た
  のにさ…ダセェ…。」
  頬を熱い滴が伝う感触に思わず、両の掌で瞳を覆った。
  支える手を失った体は重力に従って床へと倒れ込む。その際に
  頭を強打したが身体に感じる痛みよりも心の痛みの方が激烈で…。

  前はこんなに簡単に泣く事なんて無かった。いくら厳しい状況でも「天才的ぃ?」なんて余裕を決め込んで  
  乗り越えて来たのに。
  幸村に会ってから幸村が甘やかしてくれるから、手放しで泣ける場所が出来て、泣くのを我慢しなくなって
  途端に涙腺が弱くなって心まで弱くなった。

 「責任取れよ、幸村のヤロー!っていうかいなくなる予定ねぇって
  言ってただろぃ!嘘吐き!!」
  抑えきれない感情の波をブン太は一人乗り越えるため、拭う人
  のいない涙を一晩中流し続けた。

                       by 私から貴方への10の言葉 3.嘘吐き COUNT TEN.

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親愛なる俺のご主人様。

  これを読んでいるころ、俺は君の部屋に居ないだろう。
  俺は俺のもといた場所に戻ると決めたから…。

  "戻る"…とは言ってもブン太のいるこの家こそが俺の帰る場所
  だと何かの折に言ったことがあったけどそれは決して嘘
  じゃない。今でもその気持ちに変わりは無いよ。
   でも、この居心地のいい場所に留まるには捨ててきた…いや、
  捨ててきたと思っていた場所に後悔することを多く残し過ぎて
  いる。

  ブン太に拾われてから、毎日必死に前向きに生きているブン太を
  見ていて、好きだと思うようになって…。
  このままじゃいけないと考えるようになったんだ。だから、俺は
  やり残した事をすべてやり遂げてから許されるならば、ここに
  帰ってきたいと思う。
  でも、どれくらい全てを終えるまでどれくらいの時間が掛かるか
  分からない。一年後かも知れないし、一生終わらないかもしれない。

  だから、待たなくていいよ。俺の事は忘れてしまっても構わない。
  遠くに居ても俺はブン太の幸せをいつまでも祈っている。
  さようなら。どうか元気で。

                             ペットこと幸村精市


                  by  僕から君への10の言葉 6.待たなくていいよ COUNT TEN.
※※※※

手紙の内容。


「ただいま。」
  疲れた体を引きずるように自宅に入った途端に
  ブン太は違和感を感じて顔を上げた。

 「…幸村?」
  いつも鍵をあけると『おかえり』という言葉と共に
  出迎えにくるペットが今日は珍しく目の前にいない、
  それどころか家は火が消えた様に真っ暗で人の気配がしない。
 「幸村ぁ?寝てんのか?」
  疲れさえも忘れて慌てて靴を脱ぎ、リビングの扉を開けるが
  明かりの消えた部屋からは返事は無くてブン太の心に嫌な予感が
  過った。

 「幸村!」
  駆け出す様に幸村に与えた寝室の方へ駆け出したブン太が、
  ダイニングテーブルの上に置かれた一通の手紙…ペットからの
  "さよなら"の証に気付くのは数分が過ぎた後だった。

                              by  僕から君への10の言葉 10.さよなら COUNT TEN.


「なぁ、俺がいなくなるって言ったらどうする?」
 「へ?ふぁに?」
  唐突に切り出したオレの言葉に口に素麺を加えたまま、
  またかという顔でオレを睨む。
 「行儀悪いよ、ブン太。」
 「…お前がまた変な事言うからだろ。」
  つるりと素麺を啜った後にビシッと箸で人を指してくる
  ブン太に苦笑をする。

 「箸で人を指すのもマナー違反だよ。それは俺のせいじゃない。」
 「くっ…。ってか、さっきのセリフ。またかよ。
  いつも聞いてくるけど出ていく予定でもある訳?」
 「嘘だよ。そんな予定はないから。聞いてみただけ。」
  はぁ…。拾われてペットになってから何度も繰り返した
  やり取りにブン太は飽きた様にため息を吐く。
 「行くところも無いんだろぃ?バカな事言ってないで
  箸動かせ。温くなる。」
  
  そう言って再び食事に意識を戻したブン太に後ろめたさを
  隠すための笑みを浮かべる。

  この質問をする度に答えてくれるブン太はここが俺の"帰る家"
  、他の場所は帰る事を前提とした"行く"場所だと。
  ここに俺が居る事を当然だと言ってくれるから。
  俺はここに…ブン太の傍に居ていいのだと確かめたくて
  何度も何度も尋ねてしまう。
  その度に呆れながらも俺の望む答えを返してくれる大切な
  ご主人様に俺もその度に心の中で呟くんだ。

  『ごめんね…ありがとう。』

                            by  僕から君への10の言葉 3.嘘だよ COUNT TEN.


「わかんない。」
 「なんだい?」
  朝食のサラダを口に運ぼうとしていた手を止めて
  不思議そうに幸村が聞き返してくる。
  まぁ、当然だ。オレの「わかんない。」ってセリフは
  何の前置きもなく声に出したんだから。
  (当然オレの心の中の葛藤を総合すると脈略があるセリフだけど。)

 「お前がオレが言ってほしい言葉が分かんのかが、オレには
  さっぱり分からねぇ。」
 「そう言われても…そうだな。俺がいつもブン太の事を想ってる
  から…かな?」
 「気色悪いこと言うなよ。…オレは一緒に暮らしててもお前の事
  全然わかんねぇのに。」
 「ん~、改めて言われると困るけど…。でもペットってそんなもの
  じゃないかな。」
 「そうか?」
 「そうだよ。」

  まぁ、こんな議論をいつまで続けてても埒があかないし…。
  と釈然としない気持ちを押し込めて意識を食事に集中させた。
  釈然としない気持ちの中に幸村の事を何も知らないという焦燥
  の様なものが含まれていたことも、何故そのことに焦燥を感じ
  るのかを深く考えないままに。

                          by 私から貴方への10の言葉 2.わかんない COUNT TEN.

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