「じゃあ、幸村。最後施錠頼むな」
「はい、お疲れ様です。」
どやどやと賑やかに帰っていく先輩達を笑顔で見送って
ベンチに深く息を吐きながらベンチに座り込む。
あの日からまだ2週間。
正直、ブン太が隣に居ないことがこんなに堪えられないことだなんて…。
以前の俺はさぞかしビックリすることだろう。
モラトリアムの終焉―終章②―
用事もないけれど、帰る気にならなくて部室のベンチに座って
今にも泣き出しそうな空を眺めていた。
「まるで今の俺みたい…なんてね…」
そう呟いて目を伏せた瞬間。
キィィっと遠慮がちに部室の扉が開く音が聞こえて
視線を上げると中をうかがうようにドアを開けたブン太と目があった。
「……な、何だ~幸村くんかぁ。び、ビックリしたぜぃ!」
目が合った瞬間、ビクリと固まった後、ブン太は不自然なまでの
明るい声で話しかける。
久しぶりに間近で聞くブン太の声に懐かしさや嬉しさ…切なさの混じった
ような胸の高鳴りを覚えて「あ、ごめん」と泣き出しそうな笑顔で答えることで
精一杯だ。
ブン太はそれにまたビクリと反応して、俺から視線を外し、早口に喋り始める。
「俺さーカバン忘れちゃってさ~」
…ねぇ、何で俺から視線を外すの…?
「明日提出の宿題あんのにさ、バッカだよな~」
…そんな一線引いたような喋り方しないで…。
「お、あったあった!じゃぁな!幸村くん!雨降りそうだからお前も早く帰れよ!」
…俺を置いていかないでくれ…っっ!!
バタン!!
気付いた時にはドアノブに伸びたブン太の手を掴んで
引き寄せていた…。
「な、何だよっっ!!幸村くん!!離せよ!!」
抱きしめる俺の腕から逃れようと暴れるブン太を逃さないよう
腕の力を強めてその首筋に顔を埋める。
「俺の側に居ろよ…。」
そう囁くと今までもがいていたブン太がピタリと静かになった。
「…好きなんだ、ブン太。今更かもしれないけれど、側に居て欲しい。」
「本当に今更だよ…。俺のことそういう風には見れないって言ったクセに…っ
何で今更そんな事言うんだよ!!」
ドンッと俺の胸を強く押しての腕から逃れてブン太が叫ぶ。
その頬に雫が伝うと同時に、窓ガラスにポツリポツリと雨粒が降ってくる。
「本当にごめん…。でもやっと分かった、俺にはブン太が居ないとダメなんだ。」
涙で潤んだ瞳でキッとこちらを睨んでいる紅い瞳を見据えて宣言する。
「何で……そんな風に見られないって言われて俺…お前のこと諦めようと思って…
でも諦められなくて……苦しかったのに……」
幸村くんのバカヤロー!!そう叫んで下を向いてしまったブン太に
ゆっくりと近付いてその背中にゆっくりと腕を回すと、今度は大人しく腕の中に
収まった。
「こんな俺だけど、側にいてくれる?」
もう一度、そう尋ねるとキュッと俺の制服のシャツを握り締めて
涙で濡れた顔をグリグリと胸に押し付けてながら
「離れろっつっても離れてやんねーからな」
と小さな声が返ってくる。
「もちろん。離れたいって言っても離してやらないよ。」
外は雨。雨音で切り取られたような2人の空間で俺たちは
長い間、久しぶりにお互いの存在を感じあっていた。
モラトリアムの終焉。それは現状の破壊…そして新しい関係の第一歩。
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別人ーーーー!!
別人注意報ーーーーーー!!!
読み直してみると超恥ずかしいッス!!
ちなみにブン太が視線を外したりした理由は幸村の泣き笑いのような
表情を見て幸村が好きだって想いが溢れ出しそうになって慌てた…
というのが真相です…ってどうでもいいですね!!
その後ふたりがどうなったかとかはご想像にお任せします!!ってことで!
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