「やぁ、みんな。久しぶりだね。」
ようやく面会謝絶が解けたのは
アイツが倒れてから3週間以上経った後で。
部活帰りにぞろぞろと見舞いに行った俺たちが
久々に見た幸村はギラン・バレー症候群に似た症状とかいう
難病に罹った事が信じらんないほどいつもの…
柔らかい微笑みを浮かべた幸村だった。
「具合はどうだ?」
「今は大分気分が良いんだ。心配を掛けて済まなかった。」
「いや、気にするな。」
「ありがとう、それで部活の方はどうだい?赤也はサボっていなかい?」
「ひどいッスよ部長!副部長や柳先輩がいるのにサボれる訳ないじゃないっすか!!」
『”今は”って事は前はどうだったんだよ。』
『ムリして笑わなくても良いんだぜ?』
『お前がいない学校なんてつまんねぇよ!!』
色々言いたい事が頭の中で浮かんでは消え、
浮かんでは言ってはダメだと打ち消して…
そんなことを繰り返していたら気が付くと
結局俺は最後まで真田やみんなが幸村と話す声を遠くに
聞いているだけ。
幸村に別れを告げて病院の出入口。
急に伝えたい想いが溢れて抑えきれなくなって
前をぞろぞろ歩いている連中に
「ゴメン!忘れモン!」と声をかけて走り出す。
後ろから聞こえた真田の怒鳴り声も
「廊下は走らない!!」という看護士の声も
全て振り切って一直線にアイツの部屋へ―――
バタンッ!!
大きな音を立てて開いた扉に驚いた様に目を見開く
幸村の頭を俺は近付いて緩く抱き締め、胸に押し当てた。
「ブン太?…どうしたの?」
目線だけを俺に向けて尋ねる幸村に
「いいから暫くこのままで居させてくれぃ…」
そう呟いて
「幸村…幸村…」
と伝えたい想いを込めて静かにひたすら名前を呼ぶ。
「幸村…幸村…!」
夕日に染まった静かな病室に響くのは
俺の鼓動と幸村を呼ぶ声。
そして、名前を呼ぶたびに「うん…うん。」
と答えてくれる幸村の声だけで…。
世界に2人だけだと錯覚を覚えそうな
そんな切ない空間で温かい雫が
ただ飽きることなく幸村の名前を呼び続ける俺の
シャツの胸を濡らした。
♪♪♪♪♪♪♪
病気になっても気丈に振舞う幸村に
「頑張って」とか「早く治して一緒にテニスやろうな!」とか「辛いなら俺を頼ってよ」とか
「1番苦しいのは幸村なんだからムリして笑うなよ」とか「お前がいないなんて嫌だ」とか
安易な励ましやワガママを言えない…というより幸村に負担をかけそうだから言っちゃダメだと
思っているブン太がただひたすら心音と名前を呼ぶことで
幸村を励ます…みたいなモノを書きたかった…。
あと、真田とかが語っているように幸村部長は聖人君子じゃないんだよ。
という事が言いたかったけど…。
玉砕です!!盾となり散ります!!
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