ブン太姫が眠りについてから数ヶ月後…。
蔦が絡み、静まり返った弦一郎王の城の前を
一人の立海国の王子・精市が通りかかりました。
「ここは…確か弦一郎王の城だったはずだけど…」
精市王子は城の荒れ果てた様子に驚き、
城の門の辺りに近付いて呟きました。
その時です。
「確かにここは弦一郎王の城じゃ。」
どこからともなく声が聞こえ、精市王子の問いに答えました。
「…誰だい?」
自分だけしか居ないと思っていた場所から聞こえた声に
精市王子は鋭い声で誰何します。
すると、すっと門の脇の木陰から銀の髪を一つに束ねた
妖精のような風体の男が現れました。
「ワシは雅治っちゅー妖精じゃ。怪しい者じゃない。」
と名乗った明らかに怪しい男は
精市王子が聞く前にブン太姫の副作用の事、
副作用がブン太姫の『心から愛せる王子様の口付けで
解ける』ということを話始めました。
「―という訳じゃ。王子、お前が行ってブン太姫の事を目覚めさせて
くれんかの?」
初対面の妖精(怪しい風体)からの唐突な頼みに精市王子は戸惑いましたが、
雅治の真剣な様子と、雅治から聞いたブン太姫に興味を惹かれて
その願いを快諾しました。
「わかった。この城の塔で眠っている姫を起せばいいんだね?」
「ああ、そうじゃ。しかし、何が起こるか分からんしコレを持って行きんしゃい」
そう言って雅治は『プリッ』と魔法の杖を振り、あるものを取り出しました。
「ラケットと…ボール?」
「唯のラケットとボールじゃなか。魔法のラケットじゃからボール以外の者を
打ってもガットが切れる心配は全くなしじゃ☆」
そう雅治は太鼓判を押します。
『じゃあ、ボールにはどんな効果が…』と思いましたが、
聞く間もなく精市王子は雅治の笑顔に見送られ馬を置いて
城の門をくぐりました。
城へ続く道は数ヶ月手入れを怠っていた為に雑草がボーボー状態でしたが、
何ら異常は見当たりません。
「こういう時って物語では敵みたいなのが出てくるはずだけれど…」
そんな気配はないかな。と思った瞬間、
ズルズルという大きな音がし始め、目の前に見えていた城の入り口の前に
サイズもパワーもパワーアップしたマムシと
それに乗った一人の男が現れました。
「15年と数ヶ月ほど経ってしまったが、ようやく乾汁EXの解決法が分かった。」
と城の中へ入っていこうとする男が隣国のマッドサイエンティスト・乾であると
一目で気付いた精市王子は乾に声をかけました。
「解決法とは一体何だい?」
「ん…?君は立海国の王子だね。解決法はコレだ、俺が新たに開発した乾汁DX。
これを飲めばブン太姫も一発で目を覚ます。」
そういって突き出された手には天然の物では作れないほど毒々しい紫色の液体が
握られていました。
シュワシュワと煙を出すその液体を見て精市王子は
ブン太姫がどんなに胃腸の強い人でもそれを飲んだら
目を覚ますどころか永久に安らか(?)な眠りについてしまうだろうと
思いました。
「ちょっと待って、それは試飲は済んでいるのかい?」
「いいや、していないな。早く副作用を止めねばと急いでいたのでね」
「流石に試飲もしていない物を姫に飲ませるのは無責任じゃないか?」
と何とか止めようとする精市王子の言葉に乾は「ふむ…」と考え込んで
から名案だというように手を打った。
「俺はこれからコレをブン太姫に飲ませなければならない。
俺に万が一の事があると困るから君が試飲してくれないか?」
そう言って、サイズもパワーも乾汁の破壊力もアップした乾はズイッと
精市王子に蛍光紫の液体を飲ませようと差し出してきます。
ブン太姫を助けようとして生命の危機に立たされた精市王子は
乾の腕を避け、乾の動きを止めようと雅治に貰ったラケットとボールで
攻撃をしますが乾汁DXのデータを集めたいマッドサイエンティストには
全く効果がありません。
「くっ!」
そうこうしているうちに精市王子は壁際に追い詰められてしまいました。
乾汁DXは目前に迫っています。
「こうなったら…。」
と精市王子は一つだけ残っていたボールを乾の汁のジョッキを持つ手首
に向って力の限り打ちました。
「しまった!」
すると油断をしていた乾はボールの衝撃でジョッキを
落としてしまいました。
「今だ!」
そう叫ぶと精市王子はジョッキを乾の口目がけてスマッシュしました。(パワーS)
乾汁DXが入ったジョッキは物凄い速さと正確さで乾が防ぐヒマも無く
乾の口へと吸い込まれていきました。
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」
ジョッキの中味を飲み干してしまった乾は大きく苦しみの声を上げ、
顔色を赤から紫・青そして真っ白に変えてマムシの上に倒れ込み気絶して
しまいした。
マッドサイエンティストを倒したのです!
乾に倒れ込まれたマムシは乾が気絶していることを確認すると
申し訳なさそうに精市王子に会釈をして、
重そうに乾を背中に乗せたまま隣国の方へ帰っていきました。
ある意味しょうもない展開に精市王子は呆気にとられて
マムシが隣国へ続く森の中へ消えていくのを眺めていましたが、
本来の目的を思い出して城の中へと足を向けました。
雅治に教えられた通り塔の階段を上り最上階へたどり着いた
精市王子は最上階のこじんまりとした、しかし美しく整えられた部屋の中央に
大きな寝台が一つ置かれていることに気が付きゆっくりと近付きました。
するとそこには美しい紅い髪を持った可愛らしい姫君がすやすやと
眠っていました。
王子は一目でそのブン太姫のことが好きになり、
「ブン太姫、今から呪いを解いてあげるからね」とブン太姫に囁くと
ゆっくりと眠るブン太姫の薔薇色の唇に自分のそれを重ねました。
数秒経ち、精市王子が顔をあげると
ブン太姫の瞼がピクリと動き、ゆっくりとその瞳を開きました。
開かれたブン太姫も薄紫の大きな瞳と状況が飲み込めず頬を染めて戸惑っている
ブン太姫の愛らしい様子に精市王子はますますこの姫の事が好きになりました。
一方のブン太姫も赤目化した赤也から逃げていたはずなのに、
自分は城の中にいます。
それに目の前には凛々しく美しい男の人が自分の事を優しい微笑みを浮かべ
見つめていてすごくドキドキしてしまっています。
また、先程自分の唇に触れていた感触の正体も大体想像出来てしまい
嬉しいような恥ずかしいような生まれて初めて感じる感情に戸惑っていました。
「君は乾汁EXの副作用で眠ってたんだ。」
「…そうなのか?」
「あぁ、それで俺からの口付けで副作用が解けて目が覚めたんだ」
「く、口付け!!???」
自分の想像が当たっていた事が分かり、更に顔を赤くするブン太姫に
精市王子は言いました。
「俺は君の事が好きになってしまったみたいなんだ。ブン太姫、俺と結婚してくれないか?」
その言葉にビックリしましたが、精市王子のことをこの間に好きになって
しまっていたブン太姫は迷うことなく
「おう、いいぜ!」
と元気良く返事をしました。
姫の副作用が解けた時に一緒に眠りから覚めた城の人々も
ブン太姫と精市王子の結婚を多いに喜び、
折角目が覚めた愛するわが子を早速手放すのを渋った
弦一郎王を振り切りって
精市王子とブン太姫は立海国で末永く幸せに暮らしました。
END.
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ようやく終わりました~。
ブン太姫覚醒以降がとっても書くのが恥ずかしかったよ!
書きながら砂糖を吐いておりましたw
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