「おい、ブン太」
幸村の所に向おうと村の出入口に差し掛かった所で呼び止められた。
振り返ると村長の息子の弦一郎が立っていた…相変らず偉そうなヤツ…
いやなヤツに見つかったな。
「なんだよ?今日の仕事はちゃんと終わらしたぜぃ」
「どこに行くんだ?」
「やる事は終わらしたんだ。何処に行こうと俺の勝手だろぃ!」
「…また、山に行くのか?」
はぐらかそうとしてたのにやっぱり誤魔化されちゃくれなかったか!
というか誰だよ!弦一郎に山に行ってること話したのは!
周りを見回すと少し離れた所に蓮二とその後ろに隠れるように赤也が立っていた。
…赤也だな…、覚えてろよ!
「おい!聞いているのか!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえるって!行くぜ、山。」
けど、それがなんだよ?と首を傾げるて言うと、弦一郎の額に青筋が立ち
握った拳に力が入って震えている。
「お前は長老の話を覚えておらんのか!!」
殴られるかなと思ってたけど、飛んできたのは弦一郎の怒声だけだった。
それに『覚えてるよ。』と心の中で答える。
【村の東にある山の奥には日の光に弱い人の生き血を吸う化物と
化物と恋仲になった村娘の間に生まれた魔性が住んでいる】
だから山に近付いてはならない。
ほんの小さな頃から長老の婆に何十回も耳がタコになるほど聞かされた話だ。
覚えていないわけがない。
でも、あの優しい笑顔に隠れた寂しげな表情とか
わざと突き放そうとして素っ気無く振舞うけど、突き放しきれないところとか
一緒に過ごすあの居心地の良い空間とか一度触れてしまったら
もう離れることなんて出来ない。
「わりぃな!俺頭悪りぃから覚えてねぇ!!」
そう笑いながら答えて走り出す。
後ろから弦一郎や蓮二や赤也の引き止める声が聞こえるけど止まることなんて
出来ない。
何かに突き動かされるように山へ――幸村の所へ走る。
幸村が化物だろうと関係ない。
あの優しくてキレイで…でも不器用なアイツの傍にいたいんだ。
化物に血を吸われたヤツがどうなるかは俺は知らない…けど
俺は幸村になら殺されても構わない。
※※※※※※※※※
ブン太は人の気持ちに聡い子です。
幸村が一緒にいる人を求めてるのも、真田が自分のことを本当に心配して
くれているのも知っています。
幸村の一緒にいようとすると大変なコトになることも知っているけど
それでも幸村に惹かれてるのです。
…ということを書きたかった…っ!!!
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